その人に合わせるフィッティング

私たちは、補聴器はその人の一部となるものであり、うるさかったり、負担になるようなものであってはならないと考えています。
このページでは、私たちが当事者と共に30年以上かけて培ってきたフィッティングのこだわりについてお話しします。
ポイント① 音は適度に小さくする

私たちが補聴器のフィッティングを行うときは「音を小さくする」ということを意識します。
その理由は、大きすぎる音が他の音の聞こえを邪魔していたり、耳の負担になっていることがあるためです。この現象を「マスキング」と言いますが、周囲が騒がしいと他の人の声が聴こえにくくなるのと同じように、「特定の音が大きすぎることで聞こえが低下する」ということが補聴器ではよく起こっています。
私たちの経験上、一般的な補聴器は音が大きすぎます。補聴器をはじめて着けた方の「うるさくて着けていられない」という声をよく耳にしますが、これは耳の負担になるだけでなく、聞こえの状態としてもよくありません。そういった方の補聴器を適度に小さくすることで聞こえが改善したり、逆に「音が大きく聞こえるようになったんですけど、本当に小さくしたんですか?」と驚かれたりすることは少なくありません。
しかし、ただ闇雲に音を小さくしただけでは、ただ小さく聞こえるようになるだけです。その人の聞こえの特性、補聴器の状態、普段の生活などを丁寧に調査したうえで、その人にとっての最適な状態にセッティングしていくこと。これが私たちの補聴器フィッティングの1つめのポイントです。
ポイント② 慣れるのではなく、その人に合わせる

はじめて補聴器を使用する方に説明をする際、「最初はうるさいかもしれませんが、徐々に慣れていくので頑張りましょう」という説明をすることがあります。このことは補聴器を装用しているうちに耳が慣れてくるため、少しずつうるさく感じなくなる、という考えから出てきているものですが、私たちはこの考えは間違っていると考えています。
確かに、補聴器を付けているとそれに耳や脳が適応し、少しずつ聞こえは変化していきます。これは私たちの経験や脳科学の研究からも間違っていないことなのですが、ただ私たちはこうも考えます。
「なぜ私たちが補聴器に合わせなければならないのでしょう」
聞こえが変化するのであれば、その度に補聴器を調整すればいいのです。耳が慣れるまで我慢するのではなく、その時の聞こえや体調、耳や脳の変化に合わせ、補聴器を最適な状態に持っていくことが必要だと考えます。
もちろんそのような調整をしようとするとフィッティングがシビアになるだけでなく、1か月に1回、場合によっては1~2週間に1回程度の調整が必要になることもあります。特に補聴器をはじめて使用される方や、新しい補聴器に変えた方は聞こえが大きく変動するため、最初は良くても徐々にうるさく感じたり、物足りなく感じたりするようになります。
しかしこれは正常なことであり、むしろ変化しているという点で望ましいことです。新しい補聴器によって聞こえが変化し、その聞こえに合わせて補聴器をフィッティングする。そういった「その人の”今”の状態に合わせ続けるフィッティング」を続けていくことで、次第に聞こえが改善、安定してきます。そんな安定した状態になって初めて補聴器が適合したと私たちは判断しています。
ポイント③ 聞こえはその人特有のものだと考える

フィッティングをする度に感じることですが、「聞こえ」というものは本当にデリケートで、そしてよくわからないものです。僅かな変化で聞こえが大きく改善することもあれば、先にも話したような、音を小さくすることで逆に音が大きく聞こえるようになるなど、フィッティングでは不思議なことがたくさん起こります。
補聴器の専門家である私たちが「不思議」なんて言ってしまうと不審に思われる方もいるかもしれません。しかしながら、これは30年以上にわたって耳鼻科医や大学教授、何百人という当事者の協力を受け、そして何千人の補聴器の調整をしてきて得られた結論です。「理由はわからないけど、こうすれば聞こえが改善した」というたくさんの事例が私たちのフィッティングノウハウを作り上げてきました。理論立てて説明できることはあまり多くないのですが、実際にそれで聞こえが改善するのだから仕方ありません。
正直に申し上げますと、補聴器フィッティングは試行錯誤の連続です。一発でうまくいくことはほとんどなく、調整をして、試聴していただいて、その結果をもとに調整をして・・・という作業を何回も繰り返すことで、その人の聞こえの特性を少しずつ把握し、それを元に改善していきます。
他の人と同じ調整をするのではなく、その人の聞こえに合わせること。この積み重ねが補聴器の調整には必要だと私たちは考えています。
ポイント④ とにかく細かく
ご存じの方も多いかと思いますが、補聴器には膨大な量のパラメータがあります。

音響利得調整

コンプレッション設定

最大出力設定
これはSignia社のフィッティング画面ですが、音響利得、最大出力、コンプレッション、雑音抑制、ハウリングストッパー、指向性、スピーチフォーカス等々、他にも様々な機能が搭載されており、それを1つ1つ調整できるようになっています。その中でも特に細かく調整できるのが音響利得とコンプレッション、最大出力で、これらは「各周波数帯ごとに1dB単位」という細かさで調整が可能です。
現在はAIの発達によって「お客様の要望に合わせて自動で補聴器を調整する機能」がフィッティングソフトに搭載されています。しかし、私たちはこのようなAIアシスト機能を一切使いません。その理由は単純で「AIに任せるととにかく大雑把だから」です。
キンキンすると言われれば高い音をガッツリ下げ、うるさいと言われれば大きそうなところを抑える。やっていることは間違っていませんが、じゃあ高い音のどこがキンキンしているのか、2kHz帯なのか4kHz帯なのか、それとも高く感じているだけで実は1kHzや1.5kHzなどの中音域をうるさく感じている場合もあります。
そういった詳しい調査をすることなく「この場合ならこう」という一般的な調整をするのがAIの現状です。このことはAIの進化によって徐々に改善していくのでしょうが、正直今のAIは物足りないどころかその人の聞こえにまったく寄り添っていません。うるさくなくなっても聞こえが悪くなってしまっては意味がありませんし、そもそもその人の聞こえは特有のもので、一般的な調整では最適からは程遠いものにしかなりません。
当店ではそういったパラメータを1つずつ、1dBずつ細かく調整することで、その人に最適な調整を行えるように心がけています。そういった関係で完全予約制かつ、おひとりにつき1時間くらいのお時間をいただいていますが、その分丁寧なフィッティングを行っていますので、よければ一度お試しください。
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